がん登録の業務をスタートして、最初に出会う「大きな壁」がT分類(原発腫瘍の広がり) 判定ではないでしょうか。
特に胃や大腸のカルテや病理結果を見ていると、漿膜(しょうまく)」や「漿膜下層」という言葉が頻繁に登場します。
「漿膜ってなに?
「漿膜下って結局どっち?」
と迷った経験はありませんか。
この記事では、実務者がつまずきやすい漿膜の構造を「壁の中と外」という視点で整理します。
解剖の基本が立体的にイメージできるようになると、これまで謎だった病理診断のSEやSIといった記号もスムーズに読み解けるようになります。
漿膜とは?|臓器の一番外側を覆う膜

漿膜とは、臓器の一番外側を覆う薄い膜のことです。
お腹の中の臓器では、この漿膜は腹膜(臓側腹膜)と呼ばれます。
腹膜は臓器の表面を覆いながら、隣の臓器へと連続して広がっています。その腹膜が折れ重なってできた構造が、大網や腸間膜です。
つまり、がんが漿膜(=臓側腹膜)を突き抜けるということは、
- お腹の空間(腹腔)に露出する
- 腹膜を通じて隣接臓器へ広がる可能性がある
ということを意味します。
漿膜下とは?|筋層と漿膜の間にある重要な層
「漿膜下層」という言葉も、実務でよく登場します。
「下」という字がついているため、漿膜の外側だと思ってしまいがちですが、実際は漿膜の内側にある層です。
臓器の壁を内側から並べると、次のような構造になっています。
粘膜 (M:Mucosa)
粘膜下層 (SM:Submucosa)
固有筋層 (MP:Muscularis propria)
漿膜下層 (SS:Subserosa)
漿膜 (S / SE:Serosa)
つまり、
漿膜下層は「筋層と漿膜の間の層」ということになります。
図で理解|「壁の中」と「壁の外」で考えるT分類
T分類を理解するためにおすすめなのが、「壁の中」と「壁の外」というイメージです。
胃や大腸の壁を「防波堤」のように想像してみてください。外側は大海です。
壁の中:
粘膜 → 粘膜下層 → 固有筋層
境界:
漿膜
壁の外:
腹腔(お腹の空間)
この「壁」をどこまで越えたかで、T分類が決まります。
漿膜を越えるとT分類が変わる
がんが壁をどこまで進んだかによって、T分類の数字が変わります。
| 深達度 | T分類(胃・大腸) |
|---|---|
| 粘膜 | Tis / T1a |
| 粘膜下層 | T1b |
| 固有筋層 | T2 |
| 漿膜下層 | T3 |
| 漿膜露出 | T4a |
| 他臓器浸潤 | T4b |
ポイントはここです。
漿膜を越えると「壁の外」に出たことになる。
つまり
- 固有筋層まで → T2
- 漿膜下まで → T3
- 漿膜露出 → T4a
となります。
さらに隣の臓器(肝臓や膵臓など)へ浸潤するとT4bになります。
漿膜がある臓器 vs ない臓器
実は、すべての臓器に漿膜があるわけではありません。これが実務者を悩ませるポイントです。
| 臓器 | 漿膜 | ポイント |
|---|---|---|
| 胃 | あり | 臓側腹膜に覆われる |
| 大腸 | あり | 部位により漿膜なし(上行・下行結腸の後面、直腸下部(Rb)など) |
| 胆嚢 | あり | 肝臓と接する面には漿膜がない |
| 食道 | なし | 最外層は外膜(Adventitia) |
| 膵臓 | なし | 後腹膜臓器だから |
| 腎臓 | なし | Gerota筋膜が境界 |
食道のように漿膜を持たない臓器では、最外層は外膜(Adventitia)と呼ばれます。
食道がんでは、この外膜への浸潤が T3 になります。
図で理解する|解剖図を見ると一瞬でわかる
私がこの「漿膜の境界」をはっきり理解できたのは、あるきっかけがありました。
当時、病院で指導を受けていた元放射線技師の上司が、解剖図譜を見せながら説明してくれたのです。
「ほら、ここに薄い膜があるだろ?これが漿膜。ここを破って外に出るのが大変なことなんだよ。」
文字だけのテキストでは「面」としてしか捉えられなかったものが、立体的な「壁」として理解できた瞬間でした。それから解剖図を見て部位別テキストを理解する習慣がつきました。
もし、今「文字だけではイメージしにくい」と感じているなら、ぜひ一度解剖図譜を見てみることをおすすめします。
私が愛用している解剖の本はこちらです。とても絵がきれいでわかりやすいです。
まとめ|漿膜を理解するとT分類で迷わなくなる
漿膜とは、がんが
「壁の中にとどまっているのか」
「壁を越えて外へ出たのか」
を分ける重要な境界線です。
覚え方はとてもシンプルです。
壁の中 → T2まで
境界エリア → T3
壁の外 → T4以上
このイメージを持ってカルテや病理結果を読み直すと、今まで謎だった SEやSI といった記号の意味も、驚くほど理解しやすくなります。
漿膜を押さえておくと、T分類の判断で迷う場面がぐっと減りますよ。
参考資料
院内がん登録 部位別テキスト
院内がん登録 標準登録様式

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